精密かつ低侵襲、ロボットが切り拓く次世代の医療
泌尿器悪性腫瘍(腎がん、膀胱がん、腎盂尿管がん、前立腺がん)、泌尿器良性疾患(副腎腫瘍、腎盂尿管移行部狭窄症、尿膜管遺残症など)に対し、できる限り精密かつ低侵襲なロボット支援下手術を行っています。
ロボットテクノロジーで腹腔鏡手術をサポートする、ロボット支援手術とは
ロボット支援下手術とは
患者さんに直接触れることなく、医師が患部の立体画像を見ながら遠隔操作でロボットアームを操作して手術を行います。
ロボット支援手術と言っても、ロボットが自ら考え、勝手に動いて手術を行うわけではなく、これまで人間が行っていた内視鏡下手術(腹腔鏡、胸腔鏡手術等)に、ロボットの優れた機能を組み合わせて発展させた術式です。
ダヴィンチの内視鏡カメラと3本のアームを患者さんの体に挿入し、術者が数メートル離れたコンソール(操作席)に座り、3Dモニターを見ながら遠隔操作で装置を動かすと、その手の動きがコンピュータを通してロボットに忠実に伝わり、手術器具が連動して手術を行います。
カメラとアームは1cm 前後の小さい切開部分から体に挿入できるため、大きく体を切り開く必要がなく、出血など患者さんの体への負担が少ないことが特徴です。また、ロボットアームはコンピューター制御で非常に精度が高く、毛筆で米粒に漢字を書くような細かい作業も可能となっています。
現在、我々東京慈恵会医科大学附属 柏病院では様々な疾患に対してこの術式を施行しています。
ロボット支援下手術の適応について
- 2012年に日本で前立腺がんに対する前立腺全摘術に保険が適応されて以来、泌尿器科領域では爆発的にロボット手術が普及しました。
- さらに2016年に腎がんに対する部分切除術にも保険適応となり、泌尿器科手術とダヴィンチは切っても切れない関係となり、現在の日本において、泌尿器科は最もロボット手術に精通した診療科です。
- 2018年には泌尿器科疾患以外にも12の術式が保険適応となり、泌尿器科では浸潤性膀胱がんに対する膀胱全摘術も保険適応となりました。
- その後、2020年4月に腎盂尿管移行部狭窄症に対する腎盂形成術が、2022年4月に腎がんに対する腎摘除術が、腎盂・尿管がんに対する腎尿管全摘術が、保険適応となりました。
- 現在、当院では下記の通り保険適応のある全ての術式をロボット支援下手術で積極的に施行しております。
腎がん
腫瘍の大きさ、部位により術式を選択します。一般的には腫瘍径4cm以下で、腎茎部周囲(腎臓を栄養する動脈、心臓へ血流を戻す腎静脈のある場所)に位置しない腫瘍に関しては、積極的に腎部分切除術を行っています。4-7cm大の腫瘍に関しても外方突出型で技術的に可能であれば腎部分切除術を行います。部分切除術が難しい部位にある腫瘍、大きな腫瘍に関しては腎摘除術を行っています。
腎がんでも説明しました通り、抗がん剤治療の一つである免疫チェックポイント阻害薬の登場により、腎がん治療は大きく変わりました。従来は開腹手術でしか対応できなかったような進行腎がんに対しても、化学療法を併用することで腫瘍を小さくし、ロボット支援下手術で精密かつ低侵襲に腎腫瘍を切除できる場合があります。
腎盂がん・尿管がん
一般的な術式は腎尿管全摘、膀胱部分切除術です。従来、腎摘出パートは腹腔鏡下で、下部尿管および膀胱部分切除のパートは開腹下で手術を施行してきました。ロボット支援下手術では原則的に腎摘出のパートも、下部尿管および膀胱部分切除のパートも、同一体位で開腹手術へ移行することなく行います。
膀胱がん
原則的に尿路変更も含めてロボット支援下手術で行っています。尿路変向(尿の出口を変更する方法)は、新膀胱造設でも回腸道管造設でも体腔内法(ICUD)を積極的に行なっておりますが、症例毎に体腔内法(ICUD)で作成するか体腔外法(ECUD)で作成するかは検討しております。
前立腺がん
一般的な術式は前立腺全摘です。
副腎腫瘍
副腎腫瘍の疾患とその大きさによりロボット支援下副腎摘除術の適応を判断しています。また、疾患によっては部分切除術も検討します。
腎盂尿管移行部狭窄症
成人の症例に対して、ロボット支援下腎盂形成術を行っています。
ロボット支援下手術の特徴
①出血が少ない
気腹圧を利用し静脈からの出血量の減少および輸血が回避しやすいです。
②傷が小さい
5mmから15mm程度の小穴を3から5箇所ほど開け手術を行います。
③術後の回復が早い
小さな傷跡で術後の痛みが少なく、回復も早いです。
- 内視鏡(カメラ)でより拡大した視野を得られ、丁寧で安全な手術が可能
- 手術チーム全員で同じ視野を共有し、解剖の理解および技術の向上に役立つ
- 手術は術者(リーダー)、鉗子や吸引管などでアシストする助手による巧みなチームワークが求められます。
- 5mmから15mm程度の小穴を3~5箇所ほど開け、鉗子(手術器具)を出し入れするためのトロカーを挿入します。手術中は、より安全に鉗子や内視鏡を操作するために腹腔内を二酸化炭素(CO2)で気圧します。CO2の気腹により静脈性の出血が抑えられます。最後に切除した臓器を小穴より摘出し終了します。
④より解剖学的な美しい手術の実践
ロボット支援下手術・腹腔鏡手術の発展の一因として近年のカメラやハイビジョンモニターの発展が挙げられます。
開腹手術では同定しえなかった膜構造が同定できたり、小さな血管を確実に視認、処理することができます。ロボット支援下手術では術者は3D画像で3次元に画像を見ながら手術をするため、より安全で確実な手術が行えるのがロボット手術の最たる特長であると言っても過言ではありません。
このようにロボット支援下手術は優れた長所がありますが、以下に示すような合併症を起こす可能性もあります。また腸管の癒着が高度で手術操作が困難な場合、および問題が生じた際には、安全に手術を遂行するために開腹手術へ移行する場合もあります。
ロボット支援下手術・腹腔鏡手術に特有な合併症
皮下気腫
トロカー挿入部周囲からCO2 が皮下に漏出することによって起ります。
多くは、数日で自然に吸収され軽快します。
ガス塞栓
気腹に用いたCO2が血管内に入り、肺動脈に詰まってしまう状態です。
非常に稀ではあるが、重篤な合併症の一つです。
トロカー部への再発・転移
切除した臓器を摘出する際に、トロカーを挿入した部位へ再発・転移を起こすことがあります。
泌尿器科領域での頻度は0.01%との報告があり、非常に稀です。
その他、開放手術でも起こる合併症として、出血、他臓器損傷、術後腸閉塞、創ヘルニア、術後肺塞栓症などが挙げられます。
当院における手術支援ロボットについて
da Vinci®︎
米国インテュイテイブ・サージカル社が開発したダヴィンチ(da Vinci® サージカルシステム)を有しております。当院にはda Vinci Xiシステムを導入しております。
Saroa®︎
日本リバーフィールド社が開発したサロア(Saroa®︎)を有しております。こちらは世界で初めての力覚(触覚)を有する国産ロボットです。
Saroaでの泌尿器科手術は当院が世界初であり、先進医療に対しても積極的に取り組んでいます。当科岩谷医師がその経験をまとめております(①Sci Rep. 2024;14(1):31727. ②Int J Urol. 2025;32(10):1464-1471)。
安全面への取組み
ロボット支援下手術は、開腹手術同様、高い技術や知識が求められます。当院では、日本泌尿器内視鏡学会が定めた泌尿器腹腔鏡技術認定制度と泌尿器ロボット支援手術プロクター認定制度の審査を受け、泌尿器科領域における腹腔鏡手術・ロボット支援下手術に関する技術を認定された医師のもとで、すべての手術を行います。
さらに慈恵医大では、より安全な手術を行うために、ロボット支援下手術・腹腔鏡手術に係わる医師に、鏡視下手術トレーニングコース試験が義務化されており、合格者のみが実際の手術に参加することが認められております。